てんかんの治療では、部分てんかんか全般てんかんかの鑑別が大事です。
当院では、患者様から、発作の詳細をお聞きして、発作の内容と、ビデオ付きデジタル脳波計を用いた脳波ビデオ同時記録から、その鑑別をしています。
部分てんかんは、発作焦点の場所によって、①側頭葉てんかん、②前頭葉てんかん、③後頭葉てんかん、④頭頂葉てんかんに大別されます。
全般てんかんは、発作の内容によって、いくらかのてんかんが鑑別できます。①若年ミオクロニーてんかん、②覚醒時大発作てんかん、③欠神てんかんなどです。
てんかんの診断・治療には、詳しい発作の内容と経過、また、これまで使用した抗てんかん薬の詳しい使用経過が肝要です。情報をよろしくお願いします。そのような情報をもとに判断し、治療を行っていきます。
治療は、部分てんかんでは、テグレトール、イーケプラ、ラミクタール、エクセグランなどを使用し、また、付加薬として、トピナ、フィコンパ、ビムパット、ガバペン、マイスタンなどを使用します。一方、全般てんかんでは、デパケンR、エクセグラン、ラミクタール、ザロンチンなどを使用します。基本的に、単剤治療がベターです。
最近の新薬のフィコンパは、AMPA受容体を阻害し、一方、ビムパットは、持続性のナトリウムチャンネル阻害作用があります。
発作を抑制するのに、必要なことは、①服薬をきちんと守る、②睡眠不足を避ける、③飲酒を控える、④過労を避ける、⑤ストレスを減らすなどです。
日常生活で気をつけることは、①規則正しい生活をする、②睡眠不足を避ける、③過労を避ける、④過度なストレスを避ける、⑤入浴は、万一を考え、一人で入らないか、家族に見ていてもらうか、シャワーにする(まれに、入浴中に発作を起こし、大変なことになることがあります)、⑥発作の時以外は、基本的に正常ですので、余り悲観的にならなく、明るく考えるなどです。
当院では、患者様の発作を少しでも軽くするため、患者様と相談しながら、あらゆる方法を検討します。同時に精神面のフォローもさせていただき、包括的な治療に取り組みます。
私、辻は、静岡のてんかんセンターに、1984年から87年まで、3年1ヶ月勤務し、研究・診療を行い、その後名古屋市立大学病院のこころの医療センターで、てんかんの診療・研究を中心に行って来ました。また、日本てんかん学会の、前・評議員です。
お気軽に一度、受診をしてみてください。まずは電話で予約を!
てんかんの種類によって、治る率は違います。
①年齢により生じる焦点性てんかん、すなわち、ローランドてんかん(中心側頭棘波を示す良性てんかん)、早発良性小児後頭葉てんかん(パナイオトポーロス症候群)、早発良性小児後頭葉てんかん(ガストー型)では、基本的には思春期になれば寛解します。
②特発性全般てんかん、すなわち、小児欠神てんかん、若年ミオクロニーてんかん(いわゆる、ヤンツ症候群)、覚醒時大発作てんかんなどでは、80%くらいが寛解します。
③年齢に関係なくおきる焦点性てんかん、すなわち、側頭葉てんかん、前頭葉てんかん、後頭葉てんかんなどでは、 寛解率は、かなり落ちますが、テグレトールなどの治療で、半数以上が、発作が完全に寛解します。
④てんかん性脳症候群、すなわち、ウエスト症状群、レンノックス症候群、ミオクロニー脱力てんかんなどでは、寛解率は20%程度です。
以上 兼本浩祐 てんかん学ハンドブック 第3版よりを改文
予後についても、お気軽にお問い合わせください。
抗てんかん薬による治療で、てんかん患者の60-70%が長期寛解に至ることが知られています。
しかし、2年以上寛解した、主として成人の患者において、服薬を継続していても、その後の2年間に18-22%の再発が報告されています。(日本てんかん学会、成人てんかんの薬物治療終結のガイドライン)
(1)断薬後の再発
断薬後の再発は一般には1年以内に多く、2年を過ぎると少ないとされます。断薬後の再発率については、メタ解析した報告によれば、再発率は12-67%にわたり、再発の危険率は1年後25%、2年後は29%でした。別に分析した報告によれば、断薬後の再発率は12-66%であり、成人と小児に分けると再発率は成人では46-66%、小児では12-52%でした。青年期あるいはそれ以降の発病は断薬後お再発の危険率が高い。(和田一丸、Modern Physician Vol.32No.3 2012,341-343)
発作再燃の危険度は、てんかん類型別にみると、思春期以降発症の特発性全般てんかん(31.3%)、症候性局在関連てんかん(25.2%)、潜因性あるいは症候性全般てんかん(19.2%)などで高頻度でした。(藤原建樹 Clinical Neuroscience vol.29 no.1 2011 62-65)
(2)断薬する疾患名など
小児期の特発性全般てんかんである中心側頭部に棘波を示す良性小児てんかん(Benign childhood epilepsy with centrotemporal spikes:BECTS) を含む良性のてんかん症候群では、2年の発作消失期間で断薬を考慮してよいとされています。(和田一丸、Modern Physician Vol.32No.3 2012,341-343)
再発率の低いてんかん症候群としては、中心側頭部に棘波を示す良性小児てんかん(良性ローランドてんかん)などの小児の良性てんかんが代表例である。同じ小児発症でも小児欠神てんかんは少し予後が悪く、もともと発作が消失しない症例もあります。2年間発作消失したのち投薬を中止した場合の再発率は19%という報告があり、必ずしも治癒する症候群ではありません。
また、若年ミオクロニーてんかんは投薬中止後の再発が非常に高いことが知られています。投薬により発作消失する可能性は80-90%と高いにもかかわらず、発作消失例で投薬中止した場合80%以上で再発します。思春期を中心に発症する特発性全般てんかんである覚醒時大発作てんかんや、特定の症候群には分類されない特発性全般てんかんのうち、思春期に発症する症例はやはり投薬中止により再発する確率が高いといわれています。
また潜因性~症候性全般てんかんはほとんどが難治の症例であり、たとえ発作が消失しても投薬中止を考慮することは通常ありません。
てんかん発作型との関連は、そのなかでミオクロニー発作があると再発率が高いことはある程度一致した見解です。強直間代発作か二次性全般化発作の存在も再発率の高さと関連があるとされます。また、複数の発作型を持つ症例も再発率が高いといわれています。(川崎淳 精神科治療学 24(12) 1455-1460、2009)
(3)断薬の条件
成人てんかんの減薬を開始する場合の条件は、①発作が3年以上完全に抑制されていること、②脳波上で、てんかん性突発波を認めないこと、の2点です(森清幹也、波 15巻12号403-404、1991)。大塚(1984)は、3年以上の発作の完全抑制と2年以上のてんかん異常波の消失が、いずれも治療終結の基準であるが、後者の方がより信頼しうる客観的指標であると指摘しています。(久郷敏明 精神科治療学 12(6)709-712 1997)
しかし、どのような場合に断薬できるのか、あるいは断薬すべきでないのか、統一的な見解は得られていません。
(4)断薬のしかた
投薬の漸減中止は、発作消失後2-5年以降で、再発した場合にも支障のない時期を選び、脳波所見を確認しながら1年以上かけて行うことが望ましい。再発は減量中と中止後1年以内が多いので、この時期は特に十分な注意が必要です。(川崎淳 精神科治療学 24 1455-1460、2009)
投薬中止の方法としては漸減中止が一般的で、急激に中止した場合は再発が多いといわれています。少なくとも6ヶ月はかけて減量というのが常識的と考えられます。(川崎淳 精神科治療学 24(12) 1455-1460、2009)
てんかん症候群と服用薬剤、外来受診間隔により異なりますが、1剤につき、1-3ヶ月ごとに1/3-1/4ずつ減量します。(藤原建樹 Clinical Neuroscience vol.29 no.1 2011 62-65)
(5)手術例における断薬のしかた
内側側頭葉てんかんに対する手術では、最終的に60-70%の症例で完全に発作が消失すると言われています。発作が消失すれば次は投薬の終了です。今までのところ2-3年発作が消失してから投薬中止を検討することが多い。(川崎淳 精神科治療学 24(12) 1455-1460、2009)
(6)減薬中の危険サイン
減量により脳波異常が増悪した際には再発の危険が高いとした報告があります。
(7)減量中などでの車の運転指導
減薬中の自動車運転;日本てんかん学会の法的問題検討委員会におる「てんかんをもつ人における運転適性の判定指針」によれば、医師の指示により抗てんかん薬を減量(中止)する場合には、薬を減量する期間、および減量後の3ヶ月間は自動車の運転は禁止します。(藤原建樹 Clinical Neuroscience vol.29 no.1 2011 62-65)
(8)断薬後の再発する要因
再発率の高さと関連する要因としては、発作消失までの期間が長い、神経学的以上や脳の器質的異常の存在、精神遅滞などが言われている。(川崎淳 精神科治療学 24(12) 1455-1460、2009)
(9)手術例における発作の再発
てんかん外科手術後、発作が止まっていた患者(成人では2年以上、小児では1年以上)で断薬した場合、3人にふたりは発作の再発なしに経過していたが、3人にひとりは発作が再発しました。(藤原建樹 Clinical Neuroscience vol.29 no.1 2011 62-65)
(10)断薬後再発発作の予後
なお、断薬後の発作再発率は12-66%、平均34%でしたがが、服薬を再開すれば80%の患者が再び何年も続く寛解状態になったとの報告があります。しかし、再発例の19%は再び以前のような寛解状態になることはなかったと報告されています。
(11)断薬後のフォローの仕方
投薬中止後も半年から1年ごとに脳波検査を定期的に行い、中止後3年間は通院するように指示しています。(川崎淳 精神科治療学 24(12) 1455-1460、2009)
治療終結については、患者様とよく相談して、決めたいと思います。
お気軽にご相談ください。
①イーケプラの作用機序は、以下の図のような作用機序を示します。このようにSV2Aに作用して抗てんかん作用を示します。 |
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②ラミクタール(ラモトリギン):カルシウムチャンネル、ナトリウムチャンネルを阻害して、抗てんかん作用を生じます。感情安定作用があるため、精神症状のあるてんかん患者さんによく使われます。デパケンと使用すると、作用が増強されるため、使用量に気をつけます。部分発作(二次性全般化発作を含む)、強直間代発作、定型欠神発作への単剤治療。他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の次の発作に対する、抗てんかん薬との併用療法、すなわち、Lennox-Gastaut症候群における全般発作。 |
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③フィコンパ(ペランパネル):新薬です。AMPA受容体阻害作用があって、抗てんかん作用を生じます。他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の次の発作に対する、抗てんかん薬との併用療法、すなわち、部分発作(二次性全般化発作を含む)、強直間代発作に使用します。 |
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⑤トピナは図(左)に示すように、ナトリウムチャンネル、カルシウムチャンネル、また、GABA受容体などに作用など、多彩な作用で抗てんかん作用を示します。他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する抗てんかん薬との併用療法です。 |
ここでは、ILAE、NICEの選択を載せます。
①抗てんかん薬の各発作型に対する使い方は、表2は、ILAE治療ガイドラインである。
表2
ILAE治療ガイドラインの発作型による抗てんかん薬選択
発作型・てんかん症候群 | レベルA | レベルB | レベルC | レベルD |
---|---|---|---|---|
部分発作 | OXC | ― | CBZ,PB,PHT, TPM,VPA |
LTG,VGB |
全般強直間代発作 | ― | ― | CBZ,PB,PHT, TPM,VPA |
OXC |
小児欠神経発作 | ― | ― | ESM,LTG,VPA | |
若年ミオクロニー発作 | ― | ― | ― | CZP,LEV,LTG, TPM,VPA,ZNS |
中心・側頭部に棘波をもつ 良性小児てんかん |
― | ― | CBZ,VPA | GBP,ST |
レベルA:有効性が確立されている
レベルB:有効性はほぼ確実
レベルC:有効である可能性が高い
レベルD:有効な可能性がある
(Glauser T,Ben-Mendchem E, Bourgeosis B, et al,: ILAE treatment guidelines:evidence-based analysis of antiepileptic drug efficacy and effectiveness as initial monotherapy for epileptic seizures and syndromes, Epilepsia 47 : 1094-1120,2006)
OXC;オクスカルバゼピン(オクノベル)、CBZ;カルバマゼピン(テグレトール)、PB;フェノバルビタール(フェノバール)、PTH;フェニトイン(アレビアチン)、TPM;トピラマート(トピナ)、VPA;バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、LTG;ラモトリギン(ラミクタール)、VGB;ビガバトリン(サブリル)、ESM;エトサクシミド(ザロンチン)、CZP;クロナゼパム(ランドセン)、LEV;レベチラセタム(イーケプラ)、ZNS;ゾニサミド(エクセグラン)、ST;スルシアム(オスポロット)
なお、OXCは、日本では、小児の部分てんかんに併用療法として、使用している。VBは、日本では、点頭てんかんに使用されている。
②一方、NICEでは、表3のように、各発作型に、第一、第二選択薬、付加薬が推奨されている。
表3
NICE(National Institute for Clinical Excellence)2012ガイドラインでの発作型によるてんかん薬の選択
発作型 | 第一選択薬 | 第二選択薬 | 付加薬 |
---|---|---|---|
部分発作 | CBZ or LTG | LEV,OXC,VPA | CBZ,CLB,GBP,LTG,LEV, OXC, VPA or TPM |
全般性強直間代発作 | VPA,VPAが 不適切なときはLTG |
CBZ,OXC | CLB,LTG,LEV,VPA or TPM |
欠神発作 | ESM or VPA | LTG | ESM,VPA LTGの組み合わせ |
ミオクロニー発作 | VPA | LEV or TPM | LEV,VPA or TPM>CLB, CZP,piracetam or ZNS |
強直発作 脱力発作 |
VPA | LTG | RFN,TPM |
infantile spasms | TS以外の症例: Steroid or VGB TS症例:VBG |
TS症例: Steroid |
TS(tuberous sclerosis):結節性硬化症
(The epilepsies : diagnosis and management of the epilepsies in adults and children in primary and secondary care. NICE clinical guideline 137,2012)
CBZ;カルバマゼピン(テグレトール)、LTG;ラモトリギン(ラミクタール)、LEV;レベチラセタム(イーケプラ)、OXC;オクスカルバゼピン(オクノベル)、VPA;バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、CLB;クロバザム(マイスタン)、GBP;ガバペンチン(ガバペン)、TPM;トピラマート(トピナ)、ESM;エトサクシミド(ザロンチン)、CZP;クロナゼパム(ランドセン)、piracetam;ピラセタム(ミオカーム)、ZNS;ゾニサミド(エクセグラン)、RFN;ルフィナミド(イノベロン)、TS;結節性硬化症、VGB;ビガバトリン(サブリル)
OXCは、日本では、小児の部分てんかんに併用療法として、使用している。
Piracetamは、皮質性ミオクローヌスに対する抗てんかん剤などとの併用療法に使用される。
RFNは、Lennox-Gastaut症候群における強直発作及び脱力発作に対する抗てんかん薬との併用療法 。
VGBは、日本では、点頭てんかんに使用されている。
③また、NICE(表4)では、各てんかん型に対する薬の使用を示しています。
表4
NICE(National Institute for Clinical Excellence)2012ガイドラインのてんかん症候群による抗てんかん薬選択
てんかん症候群 | 第一選択薬 | 第二選択薬 | 付加薬 |
---|---|---|---|
小児欠伸てんかん 若年欠伸てんかん |
ESM or VPA | LTG | ESM, VPA and LTGの組み合わせ |
若年ミオクロニーてんかん | VPA | LTG,LEV,TPM | LTG,LEV,VPA,TPM>CLB, CZP,ZNS |
特発性全般てんかん (GTCS主体など) |
VPA,VPAが 不適切なときはLTG |
TPM | LTG,LEV,VPA,TPM>CLB, CZP,ZNS |
中心・側頭部に棘波をもつ 良性小児てんかん Panayiotopoulos症候群 遅発性小児後頭葉てんかん (Gastaut型) |
CBZ or LTG | LEV,OXC or VPA | CBZ,CLB,GBP,LTG,LEV, OXC,VPA or TPM |
Dravet症候群 | VPA or TPN | CLB or STP | |
lennox-Gastaut症候群 | VPA | LTG | RFN,TPM>FBM |
(The epliepsies : diagnosis and management of the epliepsies in adults and children in primary and secondary care. NICE clinical guideline 137,2012)
ESM;エトサクシミド(ザロンチン)、VPA;バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、LTG;ラモトリギン(ラミクタール)、LEV;レベチラセタム(イーケプラ)、TPM;トピラマート(トピナ)、CLB;クロバザム(マイスタン)、CZP;クロナゼパム(ランドセン)、ZNS;ゾニサミド(エクセグラン)、CBZ;カルバマゼピン(テグレトール)、OXC;オクスカルバゼピン(オクノベル)、GBP;ガバペンチン(ガバペン)、STP;スチリペントール(ディアコミット)、RFN;ルフィナミド(イノベロン)、FBM;フェルバメイト
フェルバメイトは日本ではまだ、使用されていません。
なお、この表は、プライマリー・ケアのための新規抗てんかん薬マスターブック;編集 高橋幸利より引用した。